「デビュー作には、その作家のすべてが詰まっている」ということで、本作『その男、凶暴につき』から、北野映画を検証してみたいと思います。 映画とは1枚の写真である 1枚の写真(=イメージ)から映画の構想を膨らませていく北野武監督。『その男、凶暴につき』では、我妻(ビートたけし)がタイコ橋をあがっていくイメージがあったのだとか。 無表情 感情の起伏をおさえた「演技」をしない自然な芝居によって、観客は自分の想いを登場人物に投影することに。 無表情なのに、深い悲しみが・・・ 省略 説明を省いた省略の技法は、北野映画の大きな特徴のひとつ。北野武監督は、説明によって意味が限定されることを嫌い、観客には想像して欲しいと語っています。 『その男、凶暴につき』では、刑事ドラマにありがちな「状況説明」が徹底的に省かれており、たとえば、野沢尚脚本では明らかにされていた、我妻の同僚であり親友の岩城(平泉成)が麻薬を横流ししていた事情が、映画では一切省略されています。 「動」と「静」の世界 突発的にはじまる暴力シーンなど、物ごとは唐突に何の前ぶれもなく始まります。そして、動(=暴力)の後に訪れる独特の間(=静)も印象的。 暴力 北野映画には暴力描写が数多く登場します。 『その男、凶暴につき』では、刑事ドラマにありがちな派手なアクションシーンはなく、トイレで麻薬の売人・橋爪(川上泳)を執拗にビンタするなど、北野映画では「痛み」が伝わってくるリアルな暴力描写が強いインパクトを観客に残すのです。 この世の無常を描く すべての物ごとは永遠ではないという無常観を、人物や出来事を第三者的な目線で描くことによってクールに表現する北野武監督。 「どいつもこいつもキチガイだ」 我妻の復讐劇のあとに訪れた無常の世界・・・ 結末 『アウトレイジ ビヨンド』における衝撃のラストショット、『キッズリターン』のラストを飾る名セリフ「俺たちもう終わっちゃったのかなあ、まだ始まっちゃいねえよ」など、北野映画の結末には、ハッとさせられるものが。 コント出身のコメディアンでもある、北野武監督だからこそなせる巧みなオチ(=結末)が北野映画には用意されているのです。 黒澤明監督や映画評論家の淀川長治さんに愛され、世界の映画祭で常連となった「世界のキタノ」こと北野武監督の映画は、デビュー作にして確立されていたといっても過言ではありません。 その映画監督、天才につきです。 作品情報
・公開:1989年 松竹富士 ・監督:北野武 ・脚本:野沢尚 ・撮影:佐々木原保志 ・音楽:久米大作 ・美術:望月正照 関連リンク ・Wikipedia:その男、凶暴につき ・Amazon.co.jp:『物語』北野武(著) ・Amazon.co.jp:『間抜けの構造』ビートたけし(著) ・Amazon.co.jp:『監督たけし―北野組全記録』佐々木桂(著)
by tokephone
| 2014-01-18 23:59
| 北野武
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